大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

奈良地方裁判所 平成12年(行ウ)5号 判決 2000年12月20日

主文

一  被告は、三郷町に対し、金五四〇〇円及びこれに対する平成一二年三月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

主文同旨

第二当事者の主張

一  事案の概要

本件は、三郷町の住民である原告らが、三郷町の監査委員である被告に対し、被告が三郷町から合計五四〇〇円相当の公金からの違法な昼食の提供を受けたことは、被告の三郷町に対する不法行為を構成するとして、被告に対し三郷町に右同額の損害賠償をすることを求めた事案である。

1  争いのない事実

(一) 原告らは、奈良県生駒郡三郷町の住民である。

(二) 被告は、三郷町の代表監査委員である。

(三) 被告は、平成一一年五月一九日から同年九月二二日までの監査事務遂行時に、三郷町の公金から一回につき六〇〇円相当の昼食を反復継続して提供を受け、合計五四〇〇円相当の昼食の提供を受けた(以下「本件昼食の提供」という。)。

(四) 原告らは、平成一一年一一月一一日に本件昼食の提供について住民監査請求をしたが、本件は監査委員の自己のことに関するとして地方自治法一九九条の二により除斥され、監査を行えないとして監査をせず六〇日が経過した。

2  争点

三郷町が前記争いがない事実(三)のとおり、監査委員である被告に対し、本件昼食の提供をしたことは違法な公金の支出であり、被告がこの提供を受けたことは、被告の三郷町に対する不法行為を構成するか。

第三判断

一  本件昼食の提供を三郷町の公金から支出したことが違法か否かについて検討する。

1  普通地方公共団体は、その事務を処理するために必要な経費を支弁するものであるところ(地方自治法二三二条一項)、その執行機関が、当該普通地方公共団体の事務を遂行する過程において、当該事務に直接必要な経費ではなくとも、当該事務を円滑に処理する上で、第三者に対し、社会通念上許される範囲内の接遇を行うことは、右事務に随伴するものとして許容されるべきであると解されるから、当該接遇が社会通念上許される範囲内のものと判断し得る場合には、その費用を公金から支出することも許される。そして、右判断は、当該接遇の必要性、接遇の程度、国民の消費及び生活水準等の諸事情を考慮してされるべきものであるから、第一次的には予算の執行権限を有する財務会計職員の裁量に委ねられていると解さざるを得ないが、一方で、地方公共団体の事務を処理するに当たっては最小の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならず(地方自治法二条一三項)、その経費は目的を達成するための必要かつ最小の限度を超えて支出してはならない(地方財政法四条一項)と規定されており、そのような法の趣旨をふまえるならば、右諸事情に加えて、当該接遇を必要とする行政事務の性質・内容、目的、効果等をも勘案し、社会通念上相当な範囲内にあると認められることが必要である。

したがって、公金からする本件昼食の提供についても、右の観点からみて、これが社会通念上相当な範囲を超えており、予算執行権限を有する財務会計職員の前記裁量を逸脱していると認められる場合には、違法となると解される。

2  右の理をふまえ、本件昼食の提供の違法性の有無について検討する。

(一) 監査委員は、普通地方公共団体の長が、議会の同意を得て、人格が高潔で、普通地方公共団体の財務管理、事業の経営管理その他行政運営に関し優れた識見を有する者及び議員のうちから選任するものであって(地方自治法一九六条一項)、その職務を遂行するに当たっては、常に公正不偏の態度を保持して、監査をしなければならないとされ(同法一九八条の三)、その職務は、普通地方公共団体の財務に関する事務の執行及び普通地方公共団体の経営に係る事業の管理を監査するほか、普通地方公共団体の事務の執行につき幅広く監査をする権限と義務を有するものである(同法一九九条)。

(二) 他方、監査委員は、普通地方公共団体から報酬及び費用の弁償を受けることができ(常勤の監査委員にあっては給料及び旅費)、かつ右報酬等は条例でこれを定めなければならず、普通地方公共団体は、いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例によるのでなければその支給が禁止されているところである

(同法二〇三条、二〇四条、二〇四条の二)。したがって、監査委員が、条例による具体的な定めによることなく普通地方公共団体から財産的給付を受けることはできない。

(三) また、三郷町では本件昼食の提供が行われた前年である平成一〇年八月二八日に、職員が職務を遂行するに当たって、常に自覚しなければならない公務員倫理の確立に関して遵守すべき事項を定め、職務執行の公正さに対する町民の疑惑又は不信を招くような行為の防止を図り、もって公務に対する町民の信頼を確保することを目的として「三郷町職員倫理規定(訓令甲第一四号)」を制定し、その三条では、職員は職務に利害関係のある者との接触については、接待を受けることはもとより、本来自らが負担すべき債務を負担させることや、一切の利益や便宜の供与(社会一般の接遇として容認される湯茶の提供等を除く)を受けることが禁止されているものである(甲五)。

(四) 三郷町では、本件昼食の提供を、町の予算から、款・総務費、項・監査委員費、目・監査委員費、細目・監査委員経費、節・需用費、細節・食糧費として支給したもので、右支給は、監査委員である被告が、町の決算監査、例月出納検査、住民監査請求陳述会等に際し、監査委員の監査が午前から午後を通じて行われる場合はその都度継続して行われてきたものである(調査嘱託の結果、弁論の全趣旨)。

3  以上によれば、本件昼食の提供は、監査業務に必要な経費ではないことはもとより、監査業務の本来の性質、すなわち、三郷町の財務、事務の執行の監査という本質にかんがみれば、監査委員が当該監査を受ける立場にある三郷町から継続的に昼食の提供を受けている事態は、三郷町住民をして、監査委員による右監査業務に不当な影響を与えているのではないかとの疑念を生じさせかねないものとして、厳に避けるべきであり、そうすると本件昼食の提供は、社会的に許容される範囲内の接遇とは到底認めがたく、本来三郷町の公金からの支出によってはならないものであったと言わねばならない。

もっとも、本件昼食の提供は、一回につき六〇〇円であって、昼食代金自体としては決して高額ではないが、食事の提供は、前記三郷町職員倫理規定にいう「湯茶の提供」を明らかに超え、人として通常必ず摂取する食事代金の提供を受けているに等しいものである(なお、監査委員には、三郷町の職員以上の倫理が要求されていることは言うまでもない。)。

以上のとおりであって、本件昼食の提供は、その性質・内容、目的、効果等を勘案すると、社会通念上相当な範囲を逸脱した監査委員に対する接遇であって、三郷町の予算執行権限を有する財務会計職員の裁量を逸脱した違法なものと言わざるを得ない。

二  普通地方公共団体の予算執行権限を有する財務会計職員から、その裁量を逸脱した違法な昼食の提供を受けたからといって、一般的には、違法な昼食の提供を受けた相手側においても直ちに三郷町に対する不法行為責任を負うものということはできない。

しかしながら、被告は三郷町の監査委員として、財務会計上の行為を監査すべき立場にある者であるから、自己の昼食代が違法に公金から支出されることを十分に知りうべきであったものであり、少なくとも、被告は本件昼食の提供が、三郷町職員の違法な公金の支出として三郷町に損害を与えるであろうことを認識すべき義務があり、被告は右注意義務に違反し、漫然と昼食の提供を受け、これにより平成一一年九月二二日までに三郷町に対し、五四〇〇円の損害を与えたものである。被告は三郷町に対し、民法七〇九条に基づき右同額の金員を賠償すべき義務がある。

(裁判長裁判官 永井ユタカ 裁判官 川谷道郎 裁判官 前田泰成)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例